弁護士ブログ
ホーム  >  弁護士ブログ  >  「お医者さんはしんどい.....(-_-;)-応召義務 パート2」

「お医者さんはしんどい.....(-_-;)-応召義務 パート2」

2018.05.02|甲斐野 正行

  前回パート1では、医師法191項が「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と医師の応召義務を定めているが、この正当事由とは何か?が問題であり、医師の働き方以前に、個別の患者との関係で医師や医療機関を悩ませているというところまで書きました。

 

 この義務は、医師と国家の間の問題(公法上の義務といいます)と理解され、本来は、医師という特殊な立場に課せられる倫理的な義務というべきものだったと思われますが、かといって、医師と患者との間の私法上の関係に全く影響がないとはいえません。

 医師や病院が何らかの理由で患者の診療を断り、その結果、患者に何らかの損害が発生したときの賠償責任の根拠として、医師法191項の「正当事由」の有無が問題とされるのです(たとえば、神戸地裁平成4630日判決・判例時報1458127頁)。

 欧米では、必ずしも一方的に医師が応召義務を負うわけではないようで、患者が医師を選ぶ権利があるのと同様に医師も患者を選ぶ権利があるという国もあるようですが、日本では、かなり厳しくこの応召義務が理解され、運用されてきました。

 

 厚生省の見解として、診療を断ることができる「正当事由」と認めているのは、

1.医師の不在または、病気等により事実上診療が不可能な場合(S30.8.12 厚生省医務課長回答)

2.天候不良で、事実上往診の不可能な場合(S24.9.10 厚生省医務局長通知)

3.手術中など患者を収容しても適切な処置が困難な場合(S39.10.14 厚生省総務課長通知)

などで、正当事由が認められるのはかなり極めて例外的なように思われます。

 他方、

① 診療費の不払いや診療時間外であることはその患者の状況次第では診療を拒むことはできないとされ(S24.9.10 厚生省医務局長通知)、

② また、医師が病気等でも、その程度や状況次第では正当事由に当たらないとされる可能性があるとされます(S30.8.12 厚生省医務局医務課長回答)。

 

 この通達の年代や「厚労省通達」ではなく「厚生省通達」であることから、やけに古いものが生きているなあ、と思われるでしょう。

 確かに戦争からあまり時間が経過していない時代は、日本全体が荒廃していて、医師や病院も極めて少なく、特に地方の医療を維持する上では医師の献身的な努力に依存せざるを得なかったということかもしれません。

 ただ、このような献身的な努力を前提に医師の勤務を設計すると、その負担は、精神的にも肉体的にも莫大なものになり、過重労働となるのは必然です。

 また、最近は、診療を受けながら診療費を支払わない人や、不当なクレームを言い募るモンスターペイシャントが増え、このような人たちへの対応も医師や病院の大きな負担になっている現実があり、このような人たちにも医師は応召義務を厳格に履行しなければならないのか、診療を拒絶できることは当然ではないか、という議論があります。もちろん、医療は手遅れになっては、その結果が取り返しのつかない重大なものとなるため、どうバランスをとるかが難しいのですが。

 

 こうしたことから、医師法191項の応召義務はもっと柔軟な解釈や運用がされるべきという議論が従前からあったのですが、厚労省はあまり積極的にこれを解決しようという姿勢はなかったように思われます。その意味では、働き方改革は、応召義務の解釈運用の改善の大きなモーメントになってもらいたいですし、その法的な整理を明確にしないと実務的に動かしていけないのではないかと思います。

 

 なお、「医師の働き方改革に関する検討会」(以下「検討会」)が今年2月にまとめた「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」では、医療機関が自主的に実施すべき緊急的な取組の1つとして、医療機関の状況に応じた医師の時短に向けた取組が挙げられ、その中で、

・ 勤務時間外に緊急でない患者の病状説明などの対応を行わない、

・ 当直明けの勤務負担を緩和する、

・ 勤務間インターバルや完全休日を設定する、

・ 複数主治医制を導入する

ことが求められています。

 

 しかし、これを受けて、全国自治体病院協議会が今年2月末から3月末にかけて実施したアンケート調査では、検討会が求める医療機関の状況に応じた医師の時短への取組が「実施できない」と答えた病院は、全体の約48%(回答した246施設中119施設)を占めたそうで、同協議会は、取組を進める上での課題として、医師や看護師らの宿日直の許可基準の見直しのほか、応召義務と時間外労働規制との関係の整理などを挙げています。病院側としては、応召義務との関係を明確にしてもらわないと、安心して前へ進めないということかと思いますし、また、実際、そのとおりでしょう。

最新情報

2018.08.07

第50回合同勉強会のご案内

2018.08.06

特殊詐欺~被害者の心を深く傷つける犯罪~①

2018.07.30

鈴峯女子中高新校舎竣工

2018.07.24

大阪府堺市のあおり運転での死亡事故―殺人罪で起訴・ドライブレコーダーの重要性

2018.07.24

ご挨拶

過去の記事

2016年12月

2017年1月

2017年2月

2017年3月

2017年4月

2017年5月

2017年6月

2017年7月

2017年8月

2017年9月

2017年10月

2017年11月

2017年12月

2018年1月

2018年2月

2018年3月

2018年4月

2018年5月

2018年6月

2018年7月

2018年8月

タグ

中井克洋 勉強会 吉村友和 根石英行 松田健 カープと私 交通事故 民法 川崎智宏 甲斐野正行 ゴルフ カープ 甲斐野弁護士 タトウー 高次脳機能障害 KEIKO 高次脳機能障害 NHK受信契約 NHK受信料 NHK裁判 中井弁護士 小室不倫 小室引退 講演会 ディープラーニング 交通事故(過失相殺) 人工知能 匿名加工情報 成年後見仕事 成年後見制度 成年後見欠格条項 神奈川県警人工知能AI AI あおり運転死亡事故 かわいがり インディアンスロゴ廃止 ガキ使  ヌーハラ パーキンソン病 交通事故(事故車について) 働き方改革 医師応召義務 危険運転致死傷罪 差別 強制わいせつ罪 東名高速交通事故 甲斐野 相撲協会セクハラ 立行事セクハラ 立行司懲戒処分 線維筋痛症 衣笠 訴状等ネット提出検討 認知度 過労死 鉄人 鉄人衣笠 難病 麺すする NHK受信料判決 NHK合憲 NHK裁判判決 行事セクハラ

弁護士法人
広島メープル法律事務所
HIROSHIMA MAPLE LAW OFFICE
side_pic_access01.jpg side_pic_access02.jpg
〒730-0004 広島市中区東白島町14-15
NTTクレド白島ビル8F
ico_tel.png 082-223-4478 ico_fax.png 082-223-0747
【受付時間】月〜金曜 9:00〜17:30
side_bnr01.jpg side_bnr02.jpg side_bnr03.jpg side_bnr04.jpg side_img_soudan.png side_btn_recruit.png