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弁護士ブログ

長澤運輸事件 最高裁判決(2018年6月1日)

2018.06.18|松田 健

  定年後、嘱託として再雇用された従業員Xさんが、定年前の正社員時代と再雇用後とで仕事内容や責任が変わらないのに、再雇用後の賃金が、正社員時代の約79%に引き下げられたのはおかしいと訴えていた、いわゆる長澤運輸事件の最高裁判決が出ました。

 

  結論として、最高裁は、精勤手当と超勤手当を除いて、賃金の引き下げは問題ない(労働契約法20条に違反しない)と判断しましたが、その際、単純に、定年前の正社員時代の賃金総額と再雇用後の賃金総額だけを比較するのではなく、各賃金項目の趣旨を個別に検討して結論を出しています。

 

 例えば、定年前の正社員時代、Xさんには、①基本給、②能率給、③職務給が支給されていましたが、再雇用後は、(A)基本賃金(※賃金体系が変わるため、賃金項目の名称も変わっていますが、事実上、①基本給に代わるもの)、(B)歩合給(※同じく、事実上②能率給に代わるもの)だけで、③職務給に相当する賃金は支給されていませんでしたが、最高裁は、以下の理由により、問題ない(労働契約法20条に違反しない)と判断しました。

 (理由)

 ⅰ ①基本給と、(A)基本賃金は、固定的に支給される賃金であるところ、(A)基本賃金が①基本給を上回っている

 ⅱ ②能率給と、(B)歩合給は、労務の成果に対する賃金であるところ、(B)歩合給が②能率給の係数を上回っている

 ⅲ 団体交渉を経て、(A)基本賃金や(B)歩合給が定められており、再雇用後は、③職務給を支給しない代わりに、(A)基本賃金や(B)歩合給を、正社員時代の①基本給や②能率給より高く設定し、収入の安定に配慮するとともに、労働の成果が賃金に反映されやすくなるよう工夫されている

 ⅳ 再雇用後のXさんの労働を、正社員の賃金体系にしたがって試算した場合の①基本給と②能率給、③職務給の合計額と、実際にXさんがもらっていた(A)基本賃金と(B)歩合給の合計額を比較すると、前者(試算による①基本給と②能率給、③職務給の合計額)のほうが高いが、それでも後者((A)基本賃金と(B)歩合給の合計額)と約12%しか変わらない

 ⅴ 再雇用者に対しては、老齢厚生年金の比例報酬部分の支給が開始されるまで、月額2万円の調整給が支給される。

 

 今回の判決は、結論だけ見ると会社側の勝訴という感じがしますが、上記の理由を見ると、Xさんの勤務先は、従前から再雇用者に対して相当程度の配慮をしていたことが分かります。

 

今後、多くの企業が再雇用者の賃金体系の精査、見直し等を検討することになると思われますが、基本給や能率給について、上記の理由ⅰ~ⅴをすべて満たす必要があるのかは現時点ではなんとも言えません。また最高裁は、理由ⅳで、試算賃金(定年退職後のXさんの労働を、正社員の賃金体系にしたがって試算した金額)と、再雇用後に実際にもらっていた賃金の差が12%にとどまることを理由の一つに挙げていますが、では、何%までであれば問題ないか(15%ではどうか、20%ではどうか)、ということまでは述べていませんので、この点も手探りで進めていくしかないと思われます。

 

  基本給や能率給以外にも、最高裁は、精勤手当や住宅手当、家族手当、役付手当、超勤手当、賞与、退職金について、それぞれの手当の趣旨を踏まえて、定年前と再雇用後で差を設けることの是非を検討、判断していますので、とくに企業の法務担当者の方は、最高裁の判決文http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785をご一読されることをお勧めします。

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