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東名高速のあおり運転での死亡事故

2017.11.01|甲斐野 正行

今年6月5日に神奈川県大井町の東名高速道路

で、加害者が被害者に注意され「むかついて」被害

者の車の進路を塞ぎ、追越し車線で無理やり停止さ

せた上、自ら降車して被害者の車のドアを開けさせ、

被害者を車外に引きずり出そうとしていたところ、

被害者の車に後続のトラックが追突して被害者と

同乗していた奥さんが亡くなり、同乗していたお嬢

さん2人も軽傷を負った事件。その悪質さから、社

会的に大きく議論を呼びましたが、今日(10月3

1日)、横浜地検は、加害者を「危険運転致死傷罪」

で起訴したとの報道がありました。

議論を呼んだのは、逮捕容疑が自動車運転死傷行

為処罰法の「過失運転致死傷罪」という法定刑が比

較的軽い罪(7年以下の懲役もしくは禁錮、又は1

00万円以下の罰金)で、その行為の悪質さと生じ

た結果の重さに見合わないという素朴な感覚によ

るのでしょう。

テレビのコメンテーターの中には、「自動車運転

過失致死傷罪」より罰則の重い殺人罪(死刑又は無

期若しくは5年以上の懲役)や自動車運転処罰法の

「危険運転致死傷罪」(致死罪なら1年以上の有期

懲役で上限は20年、致傷罪は15年以下の懲役)

の適用をいう方もおられました。

 殺人罪という構成ですと、加害者が初めから被害

者の車を無理矢理停車させて、後続車に追突させて

死亡させるつもりで行動したか、少なくともその危

険な運転で被害者の運転を誤らせて死亡させるつ

もりだった(たまたま被害者が運転を誤らずに停止

した後、後続車が追突して死亡したのは因果関係の

錯誤として処理しきれるかは疑問ですが)というと

ころが必要になりますから、これは停止後の加害者

の行動からしても、さすがに無理筋で考えにくいと

ころです。

しかし、危険運転致死傷罪はどうか、は法律家的

には結構悩ましい感じです。というのも、ぶっちゃ

け、危険運転致死傷罪は、もともと法律としての出

来がよいとはいえず、解釈運用が難しいものだから

です。

自動車の運転で必要な注意を怠り、人を死傷させ

た場合は「過失運転致死傷罪」であり、これは故意

ではない過失犯です。これに対し、「危険運転致死

傷罪」は「アルコールや薬物の影響により正常な運

転が困難な状態で自動車を走行」(飲酒運転致死傷

罪)したり、「妨害目的で走行中の車の直前に進入

したり、著しく接近したりすると同時に、重大な危

険を生じさせる速度で自動車を運転」(妨害運転致

死傷罪)するなどの(それ自体は故意の)行為によ

って、人を死傷させた場合と定められており、強盗

致死傷罪や傷害致死罪と同様に、故意の基本的犯罪

によって、犯人が本来想定していない重い人の死傷

結果が生じた場合に重く罰する犯罪類型の形をと

っています。

ただ、危険運転致死傷罪は、危険な運転による死

傷事件を重く罰するために制定を急いだせいか、対

象となる行為が何なのかがわかりやすいような形

でうまく規定できたとはいえませんでした。対象と

なる行為を特定しようとしてかえって「正常な運転

が困難な」とか、「重大な危険を生じさせる」とか、

人によって評価が分かれる要件を入れてしまった

ために、余計に運用しにくくなったのです。その結

果、こうした曖昧なところが残る刑罰法規について

は、法律家はどうしても及び腰になり勝ちで、その

要件に当たるかどうかを厳格に考えることになり

ます。

平成18年825日に福岡で起きた、一家5人

が乗っていた乗用車が、福岡市勤務の加害者が飲酒

運転する乗用車に海の中道大橋で追突されて、博多

湾に転落して幼い子3人が死亡し、夫婦2名が負傷

したという事件では、危険運転致死傷罪(当時はま

だ自動車運転処罰法として独立に定められておら

ず、刑法208条の2第1項前段)で起訴されたの

に対し、一審は「正常な運転が困難な」に当たらな

いとして危険運転致死傷罪の成立を否定し、業務上

過失致死傷罪の成立を認めるにとどめました。これ

に対して、検察側が控訴し、控訴審は、危険運転致

死傷罪の成立を認め、この結論は最高裁でも維持さ

れました。しかし、当時の法律家の感覚では、一審

の判決は決して奇異なものではなく、そうだろうな

あ、という感想を持った人も多かったように思いま

すし、最高裁でも、この件では危険運転致死傷罪は

成立しないという少数意見もあったのです。

ただ、いずれにしても、このようなわかりにくい

ところがある罰則は、事案を積み重ねて予見できる

ような類型化をしていくか、わかりやすくするよう

に改正していくことが必要です(危険運転致死傷罪

はその後特別法である自動車運転処罰法として刑

法と独立に規定し直され、対象となる行為の類型化

もされています。)。

さて、今回の東名高速の事件では、福岡の事件と

異なって、「正常な運転が困難」という評価の入る

要件の解釈の問題ではありません。何が問題かとい

うと、妨害運転「によって」人が死傷したの、「に

よって」とはどんな場合か、という点で、因果関係、

あるいは、この罰則がどんな場合を想定しているか、

というそもそも論に関わる問題です。

加害者が前方に割り込むなどしたことが「妨害運

転」に当たることは明らかであり、そのために、被

害者が運転を誤って事故を起こして死傷したとい

うのなら、わかりやすかったのです。ところが、本

件は、妨害運転の結果、被害者も加害者も一旦停止

し(その時点では死傷結果は生じていない)、加害

者が降車し、被害者を引きずり出そうとしていると

ころへ、後続車が衝突したという流れでした。直接

事故を起こしたのは後続車ですし(ただし、報道は

されていませんので、後続車の運転手の方に過失が

あったというわけではありません。この点はご注意

ください。)、加害者が一旦降車して被害者に暴行
振るうなかで、つまり、加害者が運転していない
かでの事故ですから、「妨害運転」から死傷結果
生じたのではないのではないか、あるいは、そも
も危険運転致死傷罪の妨害行為は走行中の車に限

定され、妨害行為で直接起きる事故を想定している

と解すべきではないか、という疑問があるためです。

妨害運転と事故との間に、一旦停車して加害者が降

車し、被害者を引きずり出そうとしていたという中

間の行為が挟まっているのが、どうにも悩ましいと

いうところです。

危険運転致死傷罪の適用について厳格に考えよ

うとすると、その中間の行為故に危険運転致死傷罪

は成立しないと解すべきかもしれません。

ただ、「によって」が因果関係の問題だとすれば、

妨害運転がなければ、被害者が高速道路上で停止す

ることもなかったはずで、事故も起こっていないは

ずともいえます。それではさすがに因果関係が広が

りすぎるとしても、高速道路上で被害者に対する理

不尽な怒りから妨害運転をして停車させた上、降車

後もその怒りが収まらず、高速道路上という場所の

危険を顧みずに被害者に暴行に及んでいることは、

運転それ自体ではなくても、道路交通法上問題のあ

る行為ですから、妨害運転の延長線上の行為であり、

運転それ自体と一体のものと評価すれば、妨害運転

行為は高速道路上で被害者を引きずり出そうとし

ているところまで伸びて、事故と直接リンクできま

すから、因果関係の問題はクリアできそうです。な

お、後続車も死傷結果に因果関係がありますが、両

方が重なって一つの事故として現れることは普通

の交通事故ではよくあり、両方がなければ死傷結果

は発生していませんから、加害者の妨害運転と死傷

結果との因果関係については後続車による追突自

体は邪魔にはなりません。そうした構成も理屈的に

はアリではないか、とも思われます。

今回、横浜地検は、そうした考えから、危険運転

致死傷罪で起訴することにしたものと思われます。

福岡の事件の場合と同様、裁判所の判断が試され

ているといえ、今後の裁判の進行が注目されます。
                    以 上

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