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弁護士ブログ

「立行司がセクハラ-相撲協会はどうすべきなのか?」

2018.01.10|甲斐野 正行

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

さて、相撲協会は昨年末からトラブル続きで大変ですね。

日馬富士問題、貴乃花親方の処分問題、と来て、今度は立行司の

セクハラ問題です。

報道によると、冬巡業宜野湾場所初日の昨年12月16日、立行司の

式守伊之助さんが、酒に酔って、10代の若手行司に対して唇に数回触

れたり、胸を触ったりするなどのセクハラ行為をしたことが発覚し、相撲協

会は処分を検討しているとのことです。

行司として「木村庄之助」に次ぐ地位の名跡(ウィキによると西の正横

綱)であり、「木村庄之助」が空位のままの現在では最高位の行司ですか

ら、協会としてはその衝撃はさぞやと思いますし、よりによってこんなときに!

というところでしょう。

ただ、協会に通報したのは、被害に遭った行司ではなく、某部屋所属の

行司という話もあり、本当にそうだとすると、なかなか厄介な背景もありそう

です。

 

ところで、TV報道を見ていると、コメンテーターの中に、このような酒の上

のことで、ここまでの大ごとにする前に、内部的に事を収めることが何故でき

なかったのか?という趣旨の発言をする方がいました。

しかしまず酒の上での失態だから大目に見ようという趣旨だとすると、これ

は日本独特の(悪い)考え方であり(欧米では通用しません)、酒でしくじる

ような飲み方をすること自体がダメダメですし、酒に酔っていても、その行為

時点では判断力をもって行動しているのが通常であり(後で覚えていないと

いうだけです。)、責任が軽くなるようなものではないのです。刑事事件でも

そういう言い訳をする被告人がいますが、裁判所はとりあいません。

次に、内々で穏便に処理するというのは、気持ち的に分からないではない

のですが、少なくともハラスメント事案への対処としては悪手になるリスクを

はらむものです。

ハラスメントは、基本的に立場的に弱い人がターゲットになり、声を上げよ

うにも上げられないという実態があり、多くは泣き寝入りを余儀なくされてい

ました。ようやく最近になって、社会の意識が変わり、司法も変わってきて、

少しは被害者に救いの手がさしのべられるようになりました。企業でも、ハラ

スメントの通報制度を設置するところが増えてきましたが、立場の弱さから

泣き寝入りをする人が今なお多いと思われます。今回の件も、行為自体

は認めているようですが、10代の若手の行司が最高位の行司のセクハラ

を通報するというのはなかなか難しいと思われ、別の行司が通報しなけれ

ば、泣き寝入りした事案かも知れません。

そういう実情を踏まえると、ハラスメントの通報を受けた会社としては、真

摯かつ公正に対応する姿勢を示すことが大事です。被害者や通報者は

それなりに覚悟を決めて通報するのが通常ですから、ここを下手にうやむや

に収めようとすると、従業員の会社に対する信頼を大きく損ね、会社を内

部から腐らせる原因になります。パワハラ・セクハラは被害に遭った従業員

にとって重大な問題であることは当然ですが、パワハラ・セクハラが放置さ

れるような職場環境は、従業員が誇りをもって働くことができませんから、そ

れは必然的に業績に大きく影響します。会社としても、業績を上げる上で

ハラスメントを予防し、また、きちんと処理することが重大な問題であること

を自覚する必要があります。

私たちも、パワハラ・セクハラの通報を受けて、会社からの依頼により調査

に当たることがよくあるのですが、会社からの依頼であっても、独立の第三

者としてどちらにも偏らずに、まずきちんと事実を明らかにしていくという姿勢

で臨むことが何より大事であり、そのようなスタンスで調査することで関係者

から信用して頂けると考えています。

もちろん、被害者や通報者が大ごとにせずに穏便に済ませることを望んで

いるのであれば、会社が仲裁に入ることもアリですが、少なくとも内々で済ま

せるように会社が勧める、あるいは、強いるような言動をとることはNGです。

今回の場合、被害に遭った行司ではなく、別の行司が通報したようです

から尚更であり、内々で済ませようとすることは、また協会はもみ消すつもり

かという誹りを受けかねません。だからといって、調査段階でマスコミ発表ま

でする必要があるのか?という疑問もあるでしょうが、文科省の監督を受け

る準公的組織であり(こうした公的機関では、マスコミ発表するかどうかの

内部的基準があるのが通常です)、立行司の不祥事ともなると、マスコミ

発表もやむを得ない面があるのでしょう。また、協会がマスコミ発表しなけれ

ば、別ルートから公にされる可能性が大きく、その場合にはいよいよ協会へ

の社会的批判が避けられないと思われますから、そういう意味では、協会

がこれを公表し、(事実を確認した上で)処分する方針を示したというのは

当然かと思います。

事実関係が間違いないと確認できたら、後はどの程度の処分が相当か、

ということになります。

ここも、協会のハラスメントへの姿勢が試されるところであり、難しい判断に

なります。

協会としては、ハラスメントに甘い(だから「かわいがり」などという悪習が横

行する)という批判を避けるためにあえて重めの処分を選択するかもしれま

せんが、どうなりますか。
                                         以 上