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弁護士ブログ

「裁判手続のIT化-パート3」

2018.11.12|甲斐野 正行

  パート1・2でみましたように、政府の「未来投資戦略2017」の一環として、内閣官房日本経済再生総合事務局に裁判手続等のIT化検討会が発足し、今年3月30日に検討結果として、「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて-」(以下「取りまとめ」)が公表されましたが、この「3つのe」とは、

①「e提出(e‐filing)」

②「e事件管理eCase Management)」

③「e法廷eCourt)」

とされています。

 

 前回は①の「e提出」でしたが、今回は、②の「e事件管理」です。

 取りまとめによれば、「利用者目線から見ると、e事件管理(e-Case Management)の実現として、裁判所が管理する事件記録や事件情報につき、訴訟当事者本人及び訴訟代理人の双方が、随時かつ容易に、訴状、答弁書その他の準備書面や証拠等の電子情報にオンラインでアクセスすることが可能となり、期日の進捗状況等も確認できる仕組みが構築されることが望ましい。これにより、裁判手続の透明性も高まるし、当事者本人や代理人が紙媒体の訴訟記録を自ら持参・保管等する負担から解放される効果も期待できる。」とお題目が述べられています。

 事件管理は、e提出と裏表といえ、オンラインで訴訟資料をやりとりするなら、オンラインで事件管理をすることも当然とはいえます。

 イメージとしては、概要、

・ 訴訟当事者が、随時かつ容易に、訴状・答弁書その他準備書面や証拠等の訴訟記録の電子情報にオンラインでアクセスし、期日の進捗状況等も確認できる仕組み。

・ オンラインで提出した訴状が裁判所で受理された旨を確実かつ容易に確認できる仕組み。

・ 当事者双方と裁判所がオンラインで期日の予定等を含む進行予定を調整していくような仕組み。

・ 争点整理期日で確認された進行計画やプロセスをオンラインで容易に確認し共有できる仕組み。

・ 人証調べの予定や結果、口頭弁論期日、判決言渡し期日等の情報について、訴訟当事者が容易かつ随時に確認できる仕組み。

といったところです。

 

 実感として、そういう仕組みやツールがあれば便利かも、とは思うのですが、そういう仕組みやツールができればできたで、悩みも出てきそうです。

 直感的には、裁判の公開との関係でしょう。

 裁判の公開は憲法上の要請で、具体的には、法廷での裁判の公開と、訴訟記録を第三者でも原則的に閲覧できることです。

 第三者でも訴訟記録を見ることができるというのは、もしかしたらご存じない方も多いかもしれませんし、ちょっと怖いと思われる方もいらっしゃるでしょう。

 裁判を公開することで、裁判所、ひいては司法がきちんとしていることを国民がチェックできるようにするわけですが、裁判は、関係者のプライバシーにも関わりますから、裁判の公開との関係では、関係者のプライバシーも犠牲になるということです。

 もちろん、第三者が訴訟記録を閲覧しようとすれば、現状では、わざわざ裁判所に出向いて、アナログ的に申請しなければならず、いつでも好きなように見ることができるわけではありません。膨大な数の訴訟事件がありますから、第三者の立場からわざわざ他人の訴訟記録を見るといっても、よほどの大事件か、有名人の事件くらいなものでしょう。そういう意味では、現在はそれほどプライバシーの侵害を恐れる必要は高くないといえます。しかし、これがオンラインでアクセスできるということになると、そうは言っていられなくなるでしょう。自分が関与した訴訟の記録が誰でもオンラインで見られるとなると、怖くなって、裁判を起こしたり、裁判員や証人として協力したり、ということは避けたい、という人が出てきても不思議ではありません。

 このあたりは、欧米、特に、法廷での証人尋問がTV中継されるアメリカとは感覚的に大きく異なるかもしれません。アメリカは、歴史的に司法への不信が強いため、裁判への参加や公開がかなり突っ走っているところがあります。アメリカでは、当事者に限らず、一般人でも、連邦裁判所に係属する事件記録がすべて閲覧・ダウンロードできるそうです。

 

 そういうこともあって、我が国での訴訟記録のオンライン閲覧については、ちょっと慎重な検討が必要といえ、「取りまとめ」でも、

・ 訴訟記録である電子情報に直接アクセスできるのは、訴訟当事者本人とその代理人又は関係者に限るのが相当。

・ 第三者の閲覧等の当否は、訴訟記録の閲覧・謄写制度との関係も含めて今後の丁寧な検討が必要。

という意見が付されています。

 

 ただ、閲覧を訴訟当事者に限定したとしても、一旦電子情報となったものは、うっかりミスで漏出したり、訴訟当事者(関係者)がわざと漏洩させることもあり得ます(ちなみに、当事者には、閲覧だけでなく、謄写権もありますから、電子記録としてコピーが許される可能性があります。)、そうなったときは取り返しがつかないことになりかねません。

 個人的には、ちょっと及び腰になってしまいますが、杞憂でしょうかね。

                                                                         以 上

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