「民事裁判のIT化-来年2月から広島地裁フェーズ1」
2019.07.11|甲斐野 正行
これまで、このブログで民事裁判手続のIT化について何度か触れてきましたが(平成30年9月、10月、11月、平成31年4月のブログをご覧下さい。)、少しずつではありますが、いよいよ本格化に向かって動き始めました。
最高裁は、本年6月、民事訴訟手続のIT化においてウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の新しい運用を開始することを発表し、まずは、来年(令和2年)2月頃に、知的財産高等裁判所の他、東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松の各高裁所在地の地方裁判所本庁で運用開始することとしました。
その後、来年5月頃から横浜、さいたま、千葉、京都、神戸の各地裁本庁で運用を開始し、更にその後順次拡大していく予定だそうです。
民事裁判のIT化の内容として、「e提出」「e事件管理」「e法廷」の「3つのe」がキャッチフレーズとして言われていますが、訴訟提起のオンライン化等の「e提出」、主張・証拠への随時オンラインアクセス等の「e事件管理」は法改正が必要で、まだ検討すべき事項が多く、裁判所も含めて体制作りができていませんので、これから時間をかけることになります。しかし、「e法廷」については、現行法のもとでも出来るところがあるので、これを弁護士会及び弁護士と協力しながら、運用として前倒しでやってみるということで、これが「フェーズ1」です。
民事裁判のIT化というと、訴訟提起のオンライン化や、紙媒体の廃止等が象徴的に言われますが、それは「e提出」「e事件管理」の話で法改正が必要ですので、現行法を前提とする「フェーズ1」では、訴訟提起はこれまでどおりですし、準備書面や証拠、裁判記録等も紙媒体のまま、口頭弁論期日も必要的に行われます。
「e法廷」の実施には、裁判所と弁護士事務所を結ぶソフトウェアが必須ですが、これはマイクロソフト社の「Microsoft Teams」がとりあえず使用されるようです。
無論、双方当事者が協力することが前提ですが、これまでは少なくとも一方当事者が出頭しないと開けなかった手続を、双方不出頭でも行えるようにするというのは、当事者的には大変負担が軽くなるというメリットがあります。
お題目的には、IT化が争点整理に資するということが言われていますが、中身のある争点整理は、IT化という道具的なもので実現できるものではないように思われ、それよりも出頭等の負担軽減や書面の交換だけに終始している現状の期日空転防止に意味があるように思います。
ただ、インターネットを使用することによる情報漏洩の問題はありますし、本人訴訟については裁判所職員の後見的なフォローがより必要となると思われることなど、実際に運用してみないと肌で分からないことも多いでしょうね。
来年2月というと、もう半年あまりですから、我々弁護士も対応の準備を始めないといけません。