「民事裁判のIT化-フェーズ1模擬裁判を受けての課題②」
2019.08.20|甲斐野 正行
前回のブログで、民事裁判のIT化フェーズ1の課題について少し触れましたが、今回はこれをもう少しみてみたいと思います。
本年7月10日の広島での模擬裁判では、接続不良や音声・映像の途切れが発生しました。
雨天の中、裁判所庁舎と弁護士会館の間で行われたことから、電波の具合が、という言い訳がされていましたが、無線LANではそもそも不安定になりやすいですし、扱う情報量が大きいことから、PC自体のスペックも相当のものが必要ではないかと思われます。そうすると、弁護士事務所側としては、現状のインターネット環境やPCのスペックがウェブ会議に耐えるものかどうかの検証が必要ですし、そもそもカメラやマイクも必要です。場合によっては、相当な出費にもなるので、弁護士的には結構重大なところです。
また、他の地域の模擬裁判では、(1)誰が誰に対して発言しているのかが分かりづらいとか、(2)特有のタイムラグがあって会話がしづらいという意見、(3)その場の雰囲気や発言のニュアンス、細かな所作等が分かりにくく、本格的な協議には出頭が望ましいという意見もあるようです。
(1)は、発言に際してのマナーの問題でしょうし、(2)は現在でもテレビ会議システムを使用する弁論準備手続や尋問でもある話ですし、いずれは慣れで解消される問題かと思います。(3)も同様で、電話会議なら尚更ある話ですし、結局はウェブ会議と出頭との便宜の比較による使い分けの問題でしょう。
それよりも、弁護士事務所側としては、上記のとおりカメラやマイク付きのPCを使用することから、ウェブ会議を通じて(性能や指向性によっては、マイクやカメラが事務所内の第三者の言動や、事務所内の事件記録等の画像を拾ってしまうこともあり得ます)第三者のプライバシーや秘密を漏れることがないよう、接続場所を専用の部屋やブースに限定するなどの配慮が必要です。
また、ファイルの共有化もメリットの1つですが、誤送信がないよう注意をする必要がありますし、変更履歴等を残してファイルをアップロードすると、不利な情報を相手方に提供することになりかねないので、ファイルの内容によってはこれを削除したり、新しいファイルを作ってアップロードする必要があるでしょう。
他にもいろいろ出てくるでしょうが、来年2月の運用開始に向けて準備を進めておきたいところです。