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弁護士ブログ

「同一労働同一賃金の原則⑤~住居手当と家族手当 パート1」

2021.10.11|甲斐野 正行

    前回に続き、以下の5つの最高裁判決を踏まえて、今回は住居手当と家族手当を見てみましょう。

 ①ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号88頁)
 ②長澤運輸事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号202頁)
 ③大阪医科大学事件(最判令和2年10月13日・集民第264号63頁)
 ④メトロコマース事件(最判令和2年10月13日・民集第74巻7号1901頁)
 ⑤日本郵便事件(最判令和2年10月15日・集民第264号95頁(福岡事件)、同号191頁(大阪事件)、同号125頁(東京事件))

 なお、③と⑤については、前回まではどの裁判集に登載されるのかが未定でしたが、「民集」ではなく、「集民」に登載されることになりました。
 「民集」とは最高裁判所民事判例集の略称で最高裁が出した民事判決・決定の中でも、先例としての価値が高く、今後に大きく影響を及ぼすと考えられたものを登載したもの、「集民」とは「最高裁判所裁判集民事編」の略称で、最高裁が出した民事判決・決定の中で、重要ではあるが、「民集」に登載するほどではないと判断されたものが登載されます。
 そういう意味では、③は①・②の判断の踏襲ないしバリエーション、⑤は①・②・④の判断の踏襲ないしバリエーションという位置づけなのかと思われます。


 さて、まず住居手当ですが、これは通常従業員の住宅費の補助として支給されるものと思われます。
 そうすると、これは正社員と有期社員の提供する労務を金銭的に評価して支給するものではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものといえます。

 なお、ここで制度設計上注意すべきは、住宅手当は、住宅費の補助という趣旨で支給するものですから、従業員がそもそも住宅費を負担していることが支給要件とされるべきでしょう。
 負担していないのに住宅費を支給するとなると、その趣旨自体が怪しくなってしまい(実は別の目的で出しているのではないか、ということ)、ひいては正社員と有期社員とを区別する理由の合理性も認められなくなりかねません。住宅手当制度を設けている場合、ここは一度ご確認ください。

 また、いわゆる家族手当(つまり、一定の範囲の扶養家族がいる社員に対し、生活の補助として支給される手当であり、扶養手当とか、配偶者手当、子ども手当などという名称の場合もあるかと思われます。)も同様に福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものでしょう。

 住宅手当にせよ家族手当にせよ、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであれば、正社員と有期社員とで支給の有無が異なる場合、その合理性の判断は職務内容以外の要素に着目することになるはずです。
 つまり、正社員と有期社員とで職務内容が違うからといって、それが支給の有無を区別する理由にはならず、社員の生活状況等を検討する必要があるということです。

 この論点については、まず住宅手当についての①事件の最判が重要な先例となります。

 これは、正社員には住宅手当5000円又は2万円を支給するのに対し、契約社員にはその支給がないという案件で、正社員は転居を伴う配転が予定されているため、それがない契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得ることから、正社員に住宅手当を支給して、契約社員に支給しないことは不合理ではないとしました。

 そうすると、正社員でも転居を伴うような配転が予定されていない会社の場合には、正社員と有期社員とで住居手当の支給について格差を設けることは不合理とされる可能性が高いと考えておくべきでしょう。

※なお、正社員の中で、人事制度上、転居を伴う配転が予定されている者とそうでない者がいるのに、正社員には一律住宅手当が支給されるのに対し、有期社員には一切支給されないという場合はどうか、という問題があるのですが、これは次回パート2で見ることにします。


 次に、家族手当については、⑤事件の大阪事件最判は、控訴審が「扶養手当は,長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質及び趣旨を有するものであるところ,本件契約社員が原則として短期雇用を前提とすること等からすると,正社員に対して扶養手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。」と判断したのに対し、
「郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように,継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは,使用者の経営判断として尊重し得るものと解される」としたうえで、
「もっとも,上記目的に照らせば,本件契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして,第1審被告においては,本件契約社員は,契約期間が6か月以内又は1年以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると,・・・上記正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものというべきである。したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で,本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」
として、控訴審の判断を覆しました。

 上記最判の説示の下線部のうち、扶養家族があることは当然として、相応に継続的な勤務が見込まれること、という点の意味については議論がありうるところですが、短期でも更新を繰り返すことを想定している場合には、家族手当について差異を設けることはリスクがあると考えるべきでしょう。

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