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コロナで家賃が払えない

2020.05.07|根石 英行

 

 

一向に収まらないコロナウイルスで、緊急事態の延長も確実な情勢になってきています。

経済活動も最小限で、飲食店の時間短縮要請が続き、飲食店や集客施設では、緊急事態制限の期間休業を余儀なくされているところも多数あります。休業で売上がないにもかかわらず家賃の支払いが続くことで、借主の悲鳴が上がっています。

 

 しかし、法的な観点からすると、家賃の減額や免除が当然にできるわけではありません。

 

 借主は建物や施設を利用させてもらう代わりに賃料を払います。

建物の利用とは引き渡しを受けて占有することなので、そこに物品を置いて占有している限り、家賃を払えということになります。実際にその建物を利用して店を開けたとか、そこで売り上げがあったとか、そういう借主側の事情は、賃料支払いの条件ではないのです。

コロナで店舗を閉めなければならないとしても、賃貸借を解約して店舗を明け渡すのでない限り、賃料は発生し続けると言わなければなりません。

 

そして、賃料などお金を払う義務については、不可抗力による免責がありません。物を渡す債務については、その物が無くなった場合に債務が消滅するということがあり得ますが、お金を払うことについては、そういう事態も想定できません。

コロナは自然災害で、借主の責任ではありません。しかし、そういう不可抗力で手元にお金がないだけでは金銭債務を免れることはできないのです(民法419条3項)。そして賃料の支払期限に遅れれば、それについて遅延損害金(利息)も発生しますし、解除権の発生等の債務不履行のペナルテイも生じてしまうのです。

こういう事態を免れるためには、結局、関東大震災後に政府が発令した支払猶予令(モラトリアム)のような法令を待つしかありません。

 

 賃貸借契約に関しては、本年4月1日からは新しい民法ができていますが、それ以前の契約については改正前の法律が適用されます。宅地以外の土地賃貸借では、不可抗力で収入が少なくなった場合には、借主は賃料を減額できる権利が認められていましたが(旧民法609条)。

しかし、これは耕作などで土地を賃借するような場合の規定で、建物所有を目的とする契約や建物の賃貸借契約には適用されません。また、建物が滅失して(壊れて)使用が制限された場合には、その程度に応じて賃料の減額を請求することができることになっていましたが(旧民法611条)、コロナによる借主の営業自粛を建物が壊れたことと同じに考えることはできません。

 

 テナントで入っているビル全体を家主が閉鎖することに伴って、テナントを閉店せざるを得ない場合は、家主側の事情で物件の利用ができなくなるといえますので、借主の責任ではないし、建物が使えないなら賃料は発生しないということになります。

 

なお、いずれの場合にしても具体的な契約内容に別段の定めがあれば、そちらが優先されますので、契約条項を確認してください。

 

 また、借地借家法には、貸主、借主双方に借賃増減請求権を認めています(借地借家法第32条)。この規定は、土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物借賃に比較して不相当となったときに、将来に向かって増減を請求できるもので、同趣旨の規定は多くの賃貸借契約書にも記載されています

 

しかし、コロナによる減収を理由にこの規定で減額を請求することはできないと考えられます。

 

地価動向や、経済情勢の変化、家賃相場の動向を考慮して、家賃を変更するものであり、コロナ不況で、経済情勢が悪化し、家賃相場が下がってくれば、そのときには家賃を下げることもあり得るでしょうが、今月来月の減収を理由として家賃を下げることができる、という規定ではありません。

 

 以上のように、従来の法律で検討したとき、物件が利用できる限り、コロナ禍によっても賃料を簡単に値引きしてもらったり、待ってもらったり、払わなくてよいということにならない、という借主側にとっては極めて厳しい状況にある、と言わざるを得ません。

 

国土交通省は、令和2年3月31日の事務連絡(国土動第149号)において、「賃貸用ビルの所有者など、飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者におかれましては、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討頂きますよう、貴団体加盟の事業者に対する周知をお願いいたします。」という要請を行っていますが、これは「柔軟な措置の実施検討」に留まるもので、借主の要望に応ずるかどうかは貸主次第(応じなくてもよい)ということを示しているにすぎません。貸主が借主の要請に応じて賃料の減額等に応じた場合に、損失の税務上の損金算入を柔軟に行うこととするなどの措置が設けられていますが、廻りくどい方法と言わざるを得ないでしょう。

 

(貸主向けhttps://www.mlit.go.jp/common/001343017.pdf 

 

テナント向けhttps://www.mlit.go.jp/common/001342199.pdf

 

 ただ、実際に借主が家賃を支払えなければ、契約解除や明け渡し、原状回復という事態が避けられなくなります。通常1カ月程度の賃料の遅れでは直ちに解除ということは難しいといえますが、これが3カ月から半年程度の延滞となると契約解除も可能となります。しかし、家賃が払えない状態の借主では、自ら荷物を片付けてさらに原状回復の作業を行うことは困難で、荷物も片付けられず賃料も入らないままの状態が続くという事態もあり得ます。この場合に、借主の同意なく貸主側で荷物を勝手に撤去することは自力救済行為として違法となり、別なトラブルが生じかねません。建物の明け渡しには、借主の同意かそれがなければ裁判と強制執行の法的手続きが必要です。裁判や強制執行の手続きには、当然ながら時間的、費用的なコストが発生します。

 

また、借主に連帯保証人や保証会社が入っている場合は、保証債務の履行を求めることになります。本年41日以降の賃貸借契約における保証人については保証額の上限(極度額)の定めが必要となりましたが、従前は上限がありませんでした。しかし、無制限というわけではなく、信義則上の制限と言う問題があり、貸主側もいつまでも明け渡しの請求をせずに未払をためていくことも許されません。また、保証会社の保証にも上限や貸主が適切に解除や借主への請求を行うなどの義務が定められていますので、保証契約の内容を確認しておく必要があります。

 

コロナによって借主の収入がなくなって家賃が払えず、さらに貸主が困るという事態を両者間だけで解決することは実際的には無理で、公的な支援による解決を待たざるを得ません。この点で、与党や野党において、借主に対する家賃補助の立法が検討されているようです。早期の立法措置が望まれますが、借主貸主間の交渉も、立法の状況を見据えて行われる必要があるでしょう〔日本経済新聞令和2428日記事〕。

 

また、個人に対しては、収入要件や、資産要件がありますが、休業や失業などで収入が減り、家賃が払えなくなった場合に、国や自治体が家賃を支給する「住居確保給付金」という制度があります。(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pd

 

 既存の契約や法制度ですと、結局契約当事者間においてコロナで生じたリスクを誰が負担するのか、と言う問題で処理せざるを得ませんが、そのような解決では、そして誰もいなくなったという事態が避けられず、国や社会的な介入が必要と言わざるを得ません。

 

コロナ禍の収束は見通せず、賃料補助の制度をふくめ、経済的な面での公的支援の拡充が求められておりますが、具体的な支援策をタイムリーにフォローしていくことが重要となります。参考に政府関係のホームページをご紹介します。

 

 政府関係のコロナ支援策のホームページです。

 

 経済産業省       https://www.meti.go.jp/covid-19/

 

厚生労働省(事業者向け)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000612981.pdf

 

(企業向け雇用QA) 

 

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.htm

 

   (個人向け生活支援)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pdf

 

   (雇用調整助成金)

 

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

 

 国土交通省(建設産業、不動産業に対する感染症対策)

 

       https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000166.html

 

 

 

 

 

 

 

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