「成年後見になると仕事ができない?」
2018.01.11|甲斐野 正行
成年後見制度も2000年4月に始まってもう18年が経ち、かなり一般化してきたかと思いますが、他方で、考えないといけないことも結構出てきました。
その重要な一つが成年被後見人の欠格条項です。
昨日(2018年1月10日)のニュースで、この「欠格条項」によって警備員の仕事を失った岐阜県の男性が、警備業法の規定が法の下の平等などを定めた憲法に違反するとして、今日にも国に賠償を求める訴えを起こすという報道がされていました。
各種法律で成年後見が開始されると、できないこと、あるいは、就くことができない職業・職務が定められており、これを欠格条項といいます。
例えば、
1 憲法上の権利に関わるものとして、成年被後見人は、公職選挙法では、選挙権及び被選挙権を有しないとされていました(旧公職選挙法11条1項1号)。これに伴って、最高裁判所裁判官国民審査法では、衆議院議員の選挙権を有する者が権利者として定められているため(同法4条)、最高裁判所裁判官の国民審査権を有しないものと扱われ、さらに、昨今議論が多い憲法改正の国民投票の投票権も有しないとされていました(旧日本国憲法改正の手続きに関する法律4条)。
2 また、職業選択の自由に関わるものとして、会社法上、成年被後見人又は被保佐人は、取締役(会社法331条1項2号)、監査役(同法335条1項)、執行役(同法402条4項)となることができません。
公務員についても、成年被後見人又は被保佐人は、国家公務員(国家公務員法38条1号・76条)、地方公務員(地方公務員法16条1号、28条4項)になることができないとされています。
また、職業というわけではありませんが、成年被後見人又は被保佐人は、信託における受託者になることができません(信託法7条)。
3 さらに、国家資格に関わるものとして、成年被後見人又は被保佐人は、公認会計士(公認会計士法4条1号)、税理士(税理士法4条1項2号)、弁護士(弁護士法7条1項4号)、司法書士(司法書士法5条2号)、医師(医師法3条)、薬剤師(薬剤師法4条)、建築士(建築士法7条2号)等になることができません。
4 また、成年被後見人又は被保佐人は、建設業(建設業法8条、17条)、旅行業(旅行業法6条1項5号)等を営むために必要な許認可がされないものとされています。
5 そして、このニュースとなった警備関係では、成年被後見人又は被保佐人は警備業を営むことができないし(警備業法3条1号)、警備員になることもできない(同法14条1項)とされているため、この方は警備員の仕事を失ったということなのでしょう。
これらの制限は、成年被後見人は、自分の行為の結果について合理的な判断をする能力のないこと(被保佐人は、その判断能力が著しく不十分であること)に由来するものですが、ノーマライゼーション(高齢者や障害者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方) の流れの中で、果たして成年被後見人であることで全くその仕事から排除してしまうことがどれだけ合理性を持つのか?という声が強まっています。
また、このような欠格事由を設けることで、仕事を失いたくない方は成年後見制度を利用することを躊躇することになり、かえって障がい者保護に反することになりかねません。障がい者の自立支援をする一方で、こうした欠格事由により職業・職務の制限をするのは矛盾をはらむといえます。交通事故等により障がいを持つ方々と接する機会が多い私としては、こうした制約を減らして、成年後見を使いやすくしてほしいという気持ちがあります。
選挙関係については、既に平成25年に成年被後見人の選挙権を制限していた旧公職選挙法が憲法違反とする判決が出され、これを踏まえて、成年被後見人を欠格事由としていた公職選挙法や日本国憲法改正の手続きに関する法律の規定が改正されています。
もちろん、職業によっては、第三者の生命・身体・財産等を大きく損なうおそれがあるものもあり、判断能力が十分でない方が就くことを制限するというのもやむを得ない面があるのですが、職種や分野によっては、本当に欠格とすることが合理的なのかをもっときめ細かく検討することが必要な時期に来ていると思います。
以 上