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弁護士ブログ

僧衣での自動車運転2~送検せず

2019.01.28|甲斐野 正行

今月9日のブログでとりあげましたが、福井市で昨年9月、僧衣を着て車を運転した男性に対し、警察官が、操作に支障があるとして交通反則切符(青切符)を切った事件につき、福井県警は今月26日、「違反事実が確認できなかった」として検察庁に送致しない方針を明らかにしたとの報道がありました。

 

 男性は、県道で軽乗用車を運転中に警察官に制止され、運転操作時の服装などについて定めた福井県道交法施行細則の規定に違反するとして、反則金6000円の青切符を渡されたそうで、福井県警のこれまでの説明では、男性はくるぶしまでの長さの白衣の上に、両袖の袖丈が約30センチの布袍(ふほう)を着用しており、①白衣の裾幅が狭く、両脚の太もも、膝、足元が密着しているため両足が動かしにくく、とっさのときにブレーキ操作を的確にできない恐れがあった、②布袍の両袖が垂れ下がっており、袖がシフトレバーやハンドル周辺の各種レバーに引っかかる恐れがあったと判断されたようなのですが、男性はこれに反発し反則金の支払を拒否していました。

青切符が切られると約1カ月後に通告書と納付書が郵送され、それでも納付しないときは検察庁に書類送検されて刑事手続に移行し、起訴される可能性があり、男性は、その起訴された裁判で争うという意向を示していましたので、その成り行きを注目していたのですが、福井県警は、改めて証拠の内容を精査した結果、細則に違反する事実を確認できないと判断し、送致しない方針を男性に伝えたということです。

 

この言い方は、細則自体には問題ないが、その適用ができるかどうかの判断を現場の警察官が誤ったということになります。

しかし、先のブログで触れましたように、この細則163号は、自動車運転時の運転者の履き物及び衣服について規制していますが、「下駄、スリッパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両(足踏自転車を除く。)を運転しないこと。」として、衣服についてどのようなものが「運転操作に支障を及ぼすおそれ」があるのかが規定上明確ではありません。

刑罰規定については、公権力が勝手な判断で刑罰権を濫用しないように、何をすれば罰せられるのかを国民が予め明確に判断できるように定めておかなければならないというのが憲法上の要請(罪刑法定主義・明確性の原則)です。

もちろん、何から何まで具体的に列挙するなどして定めるというのは立法技術的に限界があるにせよ、少なくとも常識的に判断して何が禁止されるのかが分かる程度には明確に定める必要があります。

しかし、福井県の上記細則は、履き物については下駄などといった例示があるので、「脱げやすく、ブレーキ等の踏み損ないがあるもの」だなという一応のとっかかりがあるものの、衣服については何の例示もなく、何がどう駄目なのかのとっかかりがありませんから、これでは明確性の原則を満たしたものとはいえないだろうな、と思います。つまり、起訴されれば、運転操作に支障があるかどうか以前に、このような細則の合憲性が問題となり、おそらく裁判所は憲法違反と判断する可能性が大きかっただろうと思います。裁判所は、憲法判断については、影響の大きいものについては慎重というか臆病ですが、このようなレベルのものでは違憲と判断しても影響が少ないので、意外と積極的に違憲判断をします。

そのときに割を食うのは誰かと言えば、まず公判を担当する福井の検察官ですし、この細則が憲法違反と裁判所から判断されれば、これを定めた福井県の公安委員会、福井県警を含む福井県全体の「恥」となります。国や他の都道府県もすべて同様の規制をしているならまだしも、国の定めた道交法自体は直接そのような規制はしていませんし、他の都道府県では、上記ブログでも指摘しましたように、そうしたリスクを予め考慮したのか、衣服については規制していないところが多いですから、福井県では制定段階で何故そこに考えが及ばなかったのか、チェックできなかったのか、と批判されることになります。

送検しないことにしたといいますが、当然のことながら、福井県警はその判断の前に検察庁と協議をしているはずで、検察庁の考えは、単に無罪のおそれがあるというにとどまらず、憲法違反のおそれ大なので、そんな案件は起訴したくない、あるいは起訴すべきでない、といったものではなかったかと推察します。検察官という人たちは、無罪を恐れること非常に甚だしいものがあり(有罪率99%という言い方は、およそ無罪になるリスクのあるものはそもそも起訴しないという意味でしかありません)、まして憲法違反となると尚更でしょう。

福井県庁内部でも、警察の問題として傍観しているわけにはいかず、県の公安委員会が定めたものの合憲性ということで、大きなニュースになっていますから、もしかしたら県の顧問弁護士にも意見を求めることがあったかもしれません。仮に意見を求められれば、多くの弁護士は、危ない、つまり、憲法違反ではないかという意見を述べたのではないかと思います。

そうすると、今回の福井県警の処理は、「運転の支障」についての現場の警察官の判断の誤りにして、細則の合憲性にはあえて触れず、後でこっそり細則を変更するという「大人の判断」による筋書きではないかと思うのですが、うがち過ぎでしょうか。

 現場の警察官は、細則の運用をきまじめにしただけで、本来細則自体が悪いはずなのですが、警察官の判断の誤りという片付け方をされると、この警察官だけが人事的な不利益を受けそうで、これはこれで気の毒です。

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